カバーされるビートルズーオアシスもいっしょー

リアムの蛸庭にいたく感動した話は以前の記事に書いた通りなのだが、最近ちょくちょくオアシスのビートルズカバーを聴いている。アンソロジーの再発で、90年代のポール、ジョージ、リンゴに思いを馳せているせいかもしれないが、どうにもこの二つのバンドは自分にとって切っては切り離せないらしい。

そうしたら運命的にもブルスコのフォロワーさんがリアムのカバーについて呟いていらして、「よーしちょっと知ってるやつまとめちゃうぞー!」の気持ちでこの記事を書くことにした。(まとめは記事後半に)


ついでに、オアシスのビートルズカバーだけでなく ビートルズ曲のカバーという行為の奥深さ” についても少し触れていきたい。ビートルズほど多彩に料理されてきた曲を持つバンドも珍しいので、そのあたりの魅力もゆるっと辿っていくつもりだ。



ビートルズ曲のカバー


『Get Back』の頃にジョージが『Hey Jude』のカバーを聴いたかとメンバーに話題を振っていた通り、ビートルズの曲は活動中から驚くほどの数のミュージシャンにカバーされていた。ビートルズが新曲をリリースすると、片っ端からカバーされ、カバー曲がチャートに載る……そんな時代が、おそらくあっただろう。

『Yesterday』はその最たる存在で、彼らの活動時点で1000ものカバーバージョンが存在した化け物級の曲だ。その後もカバーの数は増えていき、「世界で最もカバーされた曲」としてギネスにも認定されたこの曲のカバーは、今は一体何件になっているはその数を知るのは難しいだろう。


ビートルズ曲のカバーは、その量だけでなく、カバーするミュージシャンの層の厚さも特長的だ。

同じロックミュージシャンだけでなく、ソウル、ジャズ、カントリーという様々な音楽のジャンル、そして言語を飛び越えて世界中のミュージシャンにカバーされ続けている。

フランク・シナトラ自身は初めレノン=マッカートニーの曲だと思っていたという逸話が残る『Something』(https://youtu.be/YcIxxP_pOSc?si=d3nVDPcBd3ITwZnG)をカバーし、ジャズの文脈でこのカバーを歌い紡いでいった。カナダの女性歌手のアン・マレーも70年代に『You won't see me』(https://youtu.be/X4-1ovrXqZ0?si=5yXNv7ZoV3PYn8VU)をカバーして、こちらはなんとビルボードで1位を獲っている。ジョンは生前、彼女のカバーバージョンが彼のお気に入りであることを伝えたとか。

最近だと、ビヨンセが2025年のグラミーで悲願の年間最優秀アルバム賞を獲った『Cowboy Carter』で、『Black Bird』がカバーされている。(あぁ、この曲については言葉にしたいことが詰まっているのでまた別の記事で)


個人的には、黒人のソウルミュージシャンによってカバーされた曲が特に好きだ。

例えばアレサ・フランクリンの『Let it Be(https://youtu.be/uClgp4NTDyk?si=ihob4dONgYP7CPMQ)や、スティービー・ワンダーの『We can work it out』(https://youtu.be/Qh5aruRs3rw?si=7YtqzMZ_TYwv1ZSf )(2014年のビートルズトリビュートのグラミーの時の映像なのでポールとリンゴとヨーコがいる)など。

ビートルズの音楽は、50年代60年代の黒人音楽のR&BやR&Rからの深いリスペクトから生まれたものだ。60年代は「白人が黒人音楽を歌う」ことに対して、例えばストーンズのミック・ジャガーが本場のブルース歌手に「プラスティック・ソウル(紛い物の魂)」と揶揄されたこともあった時代。『ラバー・ソウル』というタイトルでアルバムを出してやんわりといなしていたのがビートルズなのだが、そんなビートルズの曲を、今度は黒人ミュージシャンがソウルやR&Bの表現で歌い継ぐ。これは、音楽のルーツが「一周回って故郷に戻ってきた」かのような深い郷愁を感じさせる。これは、彼らのカバーを聴いて「原点回帰」や「ルーツの再発見」のような感覚に近いかもしれない。


彼らのオリジナルが素晴らしいのはもちろんのこと、カバーも大変魅力的、つまりオタク的にいうと「カバーもいいぞ!」なので、カバーの魅力をこうして主張させていただきたい。


オアシスのビートルズカバー

さて、本題のオアシスのビートルズカバーの話題に触れていこう。ビートルズの大ファンを公言しているギャラガー兄弟だが、彼らのビートルズカバーを聴くと、オアシスが「90年代のロックバンド」でありながら、そのサウンドが「ブリットポップ、メロディ重視のポップス志向」であったことを改めて思い出させてくれる。

90年代の頃、『I am the Walrus』がアンコール曲だったことは有名だが、彼らのアレンジは非常にポップスの部分が強化されているアレンジだ。原曲は知っての通り、ストリングス、奇妙な音響処理、リア王のラジオテープなど、様々な試行錯誤がふんだんに詰まり、サイケデリックで前衛的な仕上がりになっている名曲。

しかし、オアシスのカバーはライブでの演奏ということもあり、ギター中心のストレートなバンドサウンドになっていて、原曲が持っていたサイケデリックさは割とさっぱり消えている。思うに、ライブで演奏するにあたって、ビートルズ後期の実験的なサウンドの再現よりも、ストーンズに近い「直球のロックサウンド」が強調されている。

じゃあそれが悪いのかというと、そんなことはもちろんなく、とても良い。レノンのボーカルは、それ自体があまりにも完成されているので、誰がカバーしても(たとえ歌うのがポールだとしても)比較してしまう。しかし、リアムのボーカルは別枠で素晴らしい。ナンセンスを極めた原曲が持つサイケデリックな倦怠感がリアムのボーカルによって、純粋なバンドサウンドの元でも見事に表現されている。

もしジョンが生きていて後年のライブで『I am the Warlas』をステージで歌ったとしても、おそらくこうはならないのだろうと思う。これがカバーの面白いところであり良さでもあるし、原曲の再発見に欠かせないカバーを聴くのは楽しい。それが好きなミュージシャンであれば尚のことだ。

つまりもっとみんな、色んなミュージシャンのビートルズ曲のカバーを探索すると、より楽しめる…かもしれない。


それでは、筆者の知る限り、ギャラガー兄弟が手掛けたビートルズ・カバーを一挙にまとめていこう。


リアム編

まずはリアム編。


『Within You Without you』

https://youtu.be/CoNNZlRYX2M?si=yB3-

オアシス期は『I am the Walrus』と初期の頃の蛸庭のイメージが強いが、何気に自分が一番好きなのは、『Within You Without you』。

この録音は、2007年にBBCラジオで行われたサージェント40周年記念のスペシャル・セッションのために撮られた録音だった。2007年というとちょっどオアシスのラストアルバム『Dig Out Your Soul』の制作にかかる頃。


BBCの記事が残っていたので、こちらから引用しつつ概要をまとめてみる。

http://news.bbc.co.uk/2/hi/entertainment/6749969.stm


ノエル談として、レコーディングに至るまでの経緯は以下のように語られている。

・ノエルは最初はこの企画に惹かれなかったが、リアムがやる気だったので彼に曲を選ばせた。

・『A Day In The Life』を持ってこられたらどうしようかと思ったが、『Within You Without You』をリアムはチョイス。…ギターねぇけど?!

・ボーカルとインド音楽しかない曲だが、リアムは「俺には聞こえる」と言うので、やってみることに。


リアムの言う通り…かどうかは分からないが、オアシスのバージョンには、シタールを残しつつもギターもドラムも入ったロックサウンドが出来上がっている。

このアイディアは割と近い時期に発表されていた『Love』の『Within You Without you/Tommorow Never Knows』(https://youtu.be/2LvieybuRcI?si=0Hr5jnkE_YeegXJ3)のリミックスから得たとインタビューにある。なので、ドラムに既視感を覚えた方、多分正解!

なお、67年の録音と同じ機材を使わせろやと言って、BBCレニー・クラヴィッツのスタジオ(どの国にあったんだろう)にあった機材をロンドンに運ばせたというビートルズフーリガンっぷりも発揮したらしい。コワイヨー。



Beady Eye期には、リアムはより多くのビートルズカバーを行っている。


『Across the Universe』

https://youtu.be/WiOF4zIjaqY?si=bUh01z2aj0cq6AxI

これは2011年の東日本大震災のチャリティコンサートで歌われた一曲で、その後アルバムにも収録されている。

地震発生から一ヶ月にも満たない期間にイベントを開催して義援金を赤十字に送ってくれたリアム、そして彼が声をかけたミュージシャンたちのことを思うと、このカバーは特に特別なものに感じてしまう。


『Cry Baby Cry』

https://youtu.be/JtdRrfMTyi0?si=se58YHyGKwbWx87-

自分で書いておきながらジョン自身はあまりこの曲を好きではなかったようだが、リアムのボーカルは良い。『BE』の発売前後は、レコードショップを回るようなイベントも多かったらしく、この動画もそこで披露されたものだろう。


『My Sweet Lord』

https://youtu.be/msQUOIDGubo?si=G3Thl2BOha_tSwko

90年代には、後輩に対して大人気ないジョージとクソガキ一直線なリアムで舌戦を繰り広げたものの、なんやかんやでジョージのことはたくさんリスペクトしているリアム。この2人の声質って若干似てると思っている筆者としては、何度も聞き返したくなる素晴らしいカバー。



ノエル編

ノエルは本当にジョンの曲が好きだなぁと思うラインナップ。

『Help!』 

https://youtu.be/t9-MdbXhQBQ?si=_eU3WR4uU9nYNOjl

MTV出演時のアコースティックが有名かもしれないが、自分は来日公演の動画が好きだ。

98年の来日の武道館公演の際、「ジョン・レノンの曲だ」とMC入れてから歌うこのバージョンがお気に入り。異国でビートルズと同じ舞台に立ったことは、彼にとってどんな想いを抱かせたかな、と想像してしまう。


『You’ve Got to Hide Your Love Away』

https://youtu.be/JrsRaAzHmwE?si=nq31KSBF8y1iAKUp

元々は日本盤の『Some Might Say』に収録されたらしい。「Hey!」の掛け声をジョンのようにうまく表現しようとしているような気もしてくる。


『All You Need is Love』&『I'm Only Sleeping』

https://youtu.be/t-kTueg0FpU?si=mLNdPFJWdLmsdIJA

https://youtu.be/RAuadl-9t-E?si=KORSWoLUv-q3eqxi

ジョン・レノン没後30年のトリビュートコンサートでの2曲。『I'm Only Sleeping』はStereophoenixとのコラボでもある。『All You Need is Love』はソロでもよくカバーしているイメージがあるが、あちらのアコースティックバージョンも捨てがたい。


『Eleanor Rigby』

https://youtu.be/XpjxC_G-n8c?si=57ICHDxq9LWohrpJ

テレビ出演時のサウンドチェックで弾かれた一曲。恐らく『Heathen Chemistry』あたりか。バンドをやらないのでその感覚が分からないのだが、サウンドチェックでさらっとすぐに演奏できるってすごいよね。


『Come together』

https://youtu.be/cSYMmvYlpNg?si=m-aofI03nOEKkQE9

ボーカルとしてではないが、なんと本家マッカートニーと、ノエルのアイドルウェラーと共に演奏した『Come together』。1995年のWar Childチャリティ・アルバムのために録られた曲だ。写真や動画から伝わってくるが、ノエルの幸せ絶頂という顔が彼のこの時の幸福度を表しているだろう。


『Strawberry Fields Forever』

https://youtu.be/8SwkLC4SNb0?si=Fzo6caynwwC-F0v2

パリでのアコースティックライブ。MCでの「You, do nothing, John」はニヤけるポイント。


『Helter Skelter』

https://youtu.be/Ya1_u6u9WFc?si=VBLpo2YYZ6GIXOz3

ジョンの曲が好きなのは分かったけど、ポールの曲はどうか。意外にも『Helter Skelter』のチョイスで、ノエルは2000年のツアーで披露している。もしかしたらU2のボノのカバーも彼は好きなのかもしれない。


結局のところ、ビートルズの楽曲は、誰が歌っても必ずその人の色が出る。カバーは原曲の模倣ではなく、原曲の再発見だ。

ノエルやリアムのカバーを通して、または様々なジャンルのアーティストの解釈を通して、ビートルズの普遍的な魅力に浸ってもらえると嬉しい。



ちょっと番外編

『My Generation』 The Who

https://youtu.be/hMrW3G8HS0Q?si=fOdm1ekQLhhQGbuC

ザックがドラムをやっていた頃のツアーのラストは『My Generation』だったのはファンはよく知っていると思うが、2015年にリアムは本家ロジャーとこの曲で共演している。ドラムはザック、ギターにはボンヘと豪華オアシスファミリー。


『Carnation』 The Jam

https://youtu.be/0fEcz4xY83s?si=v22nyRNbzbpl__hP

1999年のThe Jamのトリビュートアルバムの中の一曲『Carnation』のために、録られた一曲。リアムがボーカル、ノエルがギター、ウェラーはなぜかキーボードだが、とても良い。

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