2025年のポールを想う
今年のロックミュージックの話題の殆どをかっさらっていった、オアシスの再結成ツアー。
アメリカの独立記念日である7月4日にカーディフから始まったその熱狂は、11月25日に幕を閉じた。 そして奇しくも、オアシスのツアーが終わったまさにその同日、もう一人の巨大なミュージシャンがアメリカツアーを終えている。
2025年に御年83歳になったサー・ポール・マッカートニーだ。
個人的にオアシスの再結成のおかげで、ここ数年と比較すると数倍の密度で洋楽、特にUKロックの情報を追っていたせいか、ポール自身や彼に関する話題をよく耳にした一年だった。
2025年の最後に何を振り返ろうかと考えたとき、私はポールの一年を辿ってみたくなった。思い出せる限り書き残しておきたい。
グラミー賞の巡り合わせ
2023年11月に発表された、ビートルズ最後の曲『Now and Then』。
発表のタイミングの妙か、なぜか第67回グラミー賞にノミネートされ、「最優秀ロック・パフォーマンス賞」を受賞したことが話題になった。
意外にも、現役時代である60年代のビートルズはグラミーの受賞レースからはやや冷遇されており、主要部門での受賞は『Michelle』の最優秀楽曲賞と、『Sgt. Pepper's〜』の年間最優秀アルバム賞に留まっている。
ジョンの死後に制作された『Free as a Bird』が1997年の第39回で最優秀ポップ・パフォーマンス賞を受賞してから、28年の時を経て、今度は『Now and Then』がロックの賞を獲る。 主要部門ではないため、受賞インタビューに訪れたのもショーンのみだったし、ファンもそこまで過度な期待をしていたわけではなかったと思う。
このアルバムには、『ホワイト・アルバム』収録のポール作『Blackbird』のカバーが収録されている。
60年代の当時、公民権運動の最中の黒人女性の苦境に心を動かされてポールが書いたと語られる『Blackbird』。それが50年以上の時を経て、黒人女性のトップアーティストにカバーされ、この曲の入ったアルバムがグラミーを獲る…。
どこか運命的なサイクルを感じてしまい、この『Blackbird』が更に好きになってしまったのだった。
ビヨンセは24年のクリスマス・ゲームのハーフタイムショーでパフォーマンスを行なっている。その際にもこの曲は歌われており、こちらも大変素敵だった。
一見すると、ロックバンドとはあまり縁のなさそうなアカデミー賞。
けれどそこでも、幸福なカバーの瞬間を目にすることになった。
授賞式内のパフォーマンスとして、BLACKPINKのLISAが『Live and Let Die(死ぬのは奴らだ)』を披露する場面があった。
ウイングス期の代表曲であり、ジェームズ・ボンドシリーズの主題歌。ボンド映画へのオマージュとして企画されたステージの1曲として、この曲が選ばれていた。
(ちなみに他の2曲は、ドージャ・キャットによる『Diamonds Are Forever』と、RAYEによる『Skyfall』だった)
黒のタキシード風の衣装を纏ったLISAのパフォーマンスは、極めてクールだった。
普段の彼女が持つラップやダンスの尖ったイメージから一転して、「When you were young and〜」としっとり歌い出すギャップには、非常に心地よい色気があった。
そういえば、この後5月に足を運んだGuns N' Rosesのライブでも『Live and Let Die』の豪快なカバーを聴くことができたのも、良い思い出だ。
次回の007の主題歌はオアシスか、なんて噂も飛び交っているが、一体どうなることやら。
SNLと50年目のアビーロード
今年で50周年を迎えた『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』に、ポールがライブ出演を果たした。 披露されたのは『Golden Slumbers/Carry That Weight/The End』という、もはやお馴染みとなった『Abbey Road』のメドレーだ。
この出演の直前、彼はニューヨークでわずか500人規模のサプライズ・ライブを敢行している。おそらくこの本番のための調整を兼ねたギグだったのだろう。チケットを幸運にも手に入れられた現地の人間が、ただただ羨ましい。
私は2017年の東京ドームでポールの姿を観ている。
アリーナのそこそこ前方の席を引くことができたけれど、やはり、あの熱量を一度でいいから小さなハコで体感してみたいという憧れは消えない。
生成AIの不気味さと、創作者の矜持
昨今巷を騒がせる生成AIについて、音楽の分野でポールはいくつか語っていることがある。特に今年話題になったのは、英国でのAI著作権法改正が話題になり始めた際の、BBCのインタビューや、英国のAI政策へのミュージシャンたちの抗議の形である「無音アルバム」にも名を連ねたことは記憶に新しい。
イギリス政府は、AIの学習効率を上げるため著作権で保護されたコンテンツの無許可でのAI学習を認める規定を広げようとしていた。これに反発したのが、当たり前だがクリエイター側。ポールもこの側に立って、政府のAI制作を批判した。
ポールやアデル、エルトン・ジョン、エド・シーランなどの大物ミュージシャンたちの反対活動が功を奏し、テック企業による著作物のAI学習のためにはアーティストやレコード会社にライセンス料を支払うことが義務付けられた。
インタビューの中で少し興味深かったのは、ポール自身も自分の声を利用されて作られたAIのカバー楽曲を聴いていたということ。ビーチボーイズの『God only knows』をAIのポールの声がカバーしているのを聴いて"spooky(なんだか不気味だ)"と語っていた。
これはAI学習の是非だけにとどまらず、様々なコンテンツで二次創作を行う私のような人間にも、等しく突き刺さる言葉だと思う。 創作者への敬意を忘れ、ただ自己の利益や消費の道具として冷淡に扱うことは、どんな大義名分があろうとも目を瞑ってはいけない。改めて、静かに襟を正す気持ちになった。
ツアー、アルバム、そして『アンソロジー』の年末へ
2025年の後半、ポールは『Got Back』ツアーを再開させ、アメリカと南米を回った。このツアーに先駆けて、ポールがオアシスのライブを観に行き、ノエルの『Little by Little』をスマホで嬉しそうに撮影している姿がファンに目撃されていた。その後、すぐにツアーが始まったから。
83歳のおじいちゃん。声は掠れて、ギターを弾く手ももたついたりしつつも、観客の前に立ち続けて笑顔で歌い続ける姿を見せられると、なんとまぁ強い人なんだろうと改めて圧倒されてしまう。
その後、新たに選曲されたウィングスのベストアルバムが出されたり、今年のビートルズの話題の一つであるアンソロジーの再発があったりと、年末にかけても話題は尽きなかった。
アンソロジーは既に半分ほどはデラックス版などに入っていた楽曲が多かったものの、初期の頃の別takeは曲入り前の会話が結構多くて、ニヤけながら聴いてしまうという。
映像の方もディズニープラスで配信されたので、時間ある時にちまちま見ようかと思っている。……それって、年末年始じゃね?
"When I'm a hundred."
唐突だが、自分が好きなポールのインタビューの一つに、1982年に収録されたテレビ番組用のインタビューがある。インタビュアー:いつまでこれ(ミュージシャン)を続けたい?
ポール:これを?そうだな、永遠に。
Paul: This? Ugh...forever.
インタビュアー:本当に?
Interviewer:Really?
ポール:そうだね。最終的により良くなってると思うんだ。僕にとっては、自分のことを本当に『作曲家』だと感じてる、98歳でも、100歳でも、どうなってもね。(ヨボヨボ歌い真似)少し落ち着いて、バラードが増えるかもしれないけど。
Paul: I think so yeah, I'm finally even better, sort of, for me, I really feels as though i'm a writer really, I feel you know you'd be 98 a hundred...whatever. It is maybe slow down a bit, maybe get to be a few more ballads...
(「バラードが多くなるかもね」と若き日の彼は笑っているが、最近のハードなセットリストを見る限り、全くそんなことはないのが最高にポールらしい)
確かに、ここ最近のツアー動画を観ていると、肉体的・技術的な衰えは顕著だ。 2010年代から声の掠れは気になっていたけれど、コロナ禍に自宅で録音された『マッカートニーⅢ』の頃からは、それに増して聴いていて少し苦しそうな瞬間もある。
それでも、グラストンベリーで平然と3時間のステージをこなしてしまうポール。
そんな彼を観ていると、彼はただ純粋に、音楽が、音楽を作って人の前で歌うというその行為そのものが、心底好きなのだろうなと、ファン目線では思うばかりだ。
若い頃に語った夢の通り、生きている限り永遠に(as long as live forever)ポップスターであり続けるであろうポール・マッカートニーが、やっぱり好きだ。
そう実感した一年だった。
来年は新しいアルバムのリリースがあるだろうか、と淡い期待を抱きながら(ついでにワンチャン、もう一度日本に来てくれないかなとも願いつつ)、ビートルズのオタ活に励もうと思う。
どうぞ来年もよしなに。
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